SALTAPSとは?プレー継続できるかどうかを判断するためのステップを解説

「試合中にケガをした時、プレー継続できるかどうかをどう判断すればいいのか分からない…」

「普段通りの評価方法だと、試合中のケガの評価には時間がかけられないので、何かいい評価方法はないかな?」

今回の記事では、SALTAPSとは何か、どのように使って試合中や練習中、トレーニング中にケガをしてしまった選手がプレー継続できるかどうかを判断するのかについて説明します。

最後に、SALTAPSが詳細にケガの評価をする際には適していない理由も解説します。

SALTAPSとは

SALTAPSとは、See, Ask, Look, Touch, Active Range of Motion, Passive, Range of Motion, Strengthの英語の略語です。

イングランドのサッカーで試合中や練習中にケガが発生したときにどのような手順を踏んで、問題がなければプレーを継続させるというチェックリストのように分かりやすい手順になっているのがSALTAPSの特徴です。

また、このSALTAPSは、チームドクターやアスレティックトレーナーなどの専門家向けに考えられた評価方法ではなく、医学的な資格を取得していないサッカー指導者向けに考えられた評価方法という点も特徴の1つです。

S: See 見る

SALTAPSの最初のSは「See 見る」の頭文字のSです。

サッカーの試合中に指導者はベンチにいるため、ケガを起こる場面をモニタリングしてケガの状況を見ます。

指導者の場合には、このSにはSeeだけではなく、練習中であればStopの意味も含まれています。

これは初期評価の1つ目のステップである安全確保と同じ考えで、さらなる被害の拡大を防ぎます。

プレーを止めるところまで含まれているので、ケガの状況を見るだけではなく、「ケガの状況を判断して、プレーを止める」というところまでが最初のSです。

SALTAPSの最初のSの特徴はケガや事故が発生する前も含めている点だと思っています。

サッカーにおいて、アスレティックトレーナーもベンチに座っていますが、他のスポーツでは所定の位置に座らずにラグビーのように試合中のボールの移動に合わせてアスレティックトレーナーの位置を変える必要があります。

このように立ち位置を変えることが可能なスポーツや試合ではなく、練習においては、アスレティックトレーナーであれば、ケガが起こりやすい状況において、ケガが発生する瞬間を自分の目で観察できる立ち位置を考える必要があります。

この時に参考になるのが、スポーツ外傷・障害・疾病調査の結果です。

どのような受傷機転で起こっているのか、どのようなプレーで起こっているのか、どのポジションが多いのか、どこの競技エリアで起こりやすいのか、など様々な疫学データが参考になります。

また、トップレベルやアメリカンフットボールのようにアスレティックトレーナーなどのメディカルスタッフが多い場合には誰が何を、どこを担当するのかあらかじめ役割分担をすることも大切です。

また、トレーニング中の場合には、ケガをしやすいフォームのエラーを見やすい場所でクライアントのフォームをチェックすることもこのSに含まれています。

A: Ask 尋ねる

SALTAPSの1つ目のAは、「Ask 尋ねる」の頭文字のAです。

SALTAPSは、基本的にプレーが継続できるかどうかを判断するための評価方法なので、このケガが起きて、ピッチの中に入り、ケガをした選手に近づいて尋ねる状況では、意識はあり、呼吸は普段通りの状態です。

また、問診でもしっかりと受け答えが出来ている状態というのが前提にあります。

二次評価でのスポーツドクターやアスレティックトレーナーの問診では、しっかりと時間をかけてケガをした選手自身や保護者、チームメイト、そして指導者から聞き取りをすることがとても重要ですが、SALTAPSでの問診では、プレー継続できるかどうかを判断するための最低限の最重要項目を聞きます。

最低限の最重要項目に含まれるのは、

  • ケガのメカニズム/受傷機転: 「何が起こったか」「どのようにケガをしたのか」
  • ケガをした解剖学的構造の部位: 「どこが痛いのか」

メカニズムと受傷部位による鑑別診断でケガのリストを頭の中に浮かべながら評価を進めます。

SALTAPSの評価を進めて、頭の中に浮かべている鑑別診断を除外していき、プレー継続できないという評価結果が残らなければ、プレー継続という判断になります。

逆に言えば、詳細な評価である二次評価をしなければ、プレー継続できないという鑑別診断を除外できなければ、SALTAPSを終えて、二次評価へと移行することになります。

最低限の最重要項目は、上記の2つですが、私の場合は、痛みのスケールを0から10で聞くことと、受傷したときに何か音を感じたり、聞いたりしていないかは聞くようにしています。

また、受傷した選手の心理的な面も重要視しているので、自分自身でプレーを継続できるかと思うか、継続したいかの選手自身の意思は必ず確認します。

多くの選手が試合中にケガをした場合には、反応的に無理だと分かっていても言葉では「できます!」「行かせてください!」と言いますが、素直に本音を伝えてくれる選手もいます。

また、言葉では「できます!」と言っても、表情や声のトーンでは「できません」と言っている場合もあります。

「大した事ないケガだと否定する選手」「前半だけやらせてください。試合終わったらやれって言われたことやりますから、続けさせてください。など交渉してくる選手」どれもケガをした選手に起こる通常の心理的な反応です。

ケガをした部位だけではなく、選手の心理面を評価するためには評価中には言葉でのコミュニケーションと非言語でのコミュニケーションがとても重要です。

L: Look 視る

SALTAPSのLは「Look 視る」の頭文字のLです。

実際にケガをした部位を診ます。

ここでは、全身の観察も重要ですが、ケガの部位またはその周囲の視診でより局所的な視診になります。

主にケガのサインである徴候がないかを探します。

SALTAPSでは、問診と視診、そして次のステップである触診に関してはほぼ同時に実施し、ケガの症状や徴候を探りながら、プレーを継続できるかどうかの判断材料にします。

T: Touch 触る

SALTAPSのTは「Touch 触る」の頭文字のTです。

実際にケガをした部位を触ります。

問診や視診で得られた情報を得ながら、ケガをしたと思われる解剖学的構造をイメージしながら触診していき、変形や圧痛、腫れ、熱感などがないかを確認します。

問診や視診でケガをしたと予測できる解剖学的構造を触診することも大切ですが、鑑別診断のリストの中にあるプレー継続できないケガに関連する解剖学的構造も触診してプレー継続できないケガをしていないという可能性を少なくしていくことも重要です。

先ほども書きましたが、問診・視診・触診はほぼ同時に行いますが、次のステップである関節可動域に関しては実際に患部を動かすステップです。

問診・視診・触診をしているときに安全に関節可動域検査ができる状態かを判断する必要があります。

変形や強い圧痛、大きな腫れなどがある場合には、骨折や脱臼・亜脱臼を疑う必要があるため、固定する必要があるので、問診・視診・触診の段階でプレーは継続できない、もしくはサイドラインなどに移動してから詳細な評価が必要だと判断するため、次に考えることはサイドラインなどへどのように移動・搬送するかを決める必要があるので、ここでSALTAPSは終了になります。

A: Active Range of Motion 自動関節可動域

SALTAPSの2つ目のAは「AROM 自動関節可動域」の頭文字のAです。

実際にケガをした関節またはケガをした部位に関連する関節を選手自身が動かします。

まず選手に「自分で動かせれるか」を確認します。

自分で関節を動かそうという意思があり、実際に動かしたときに動かした関節の角度(可動範囲)が正常に動いているかを観察します。

関節の可動範囲だけではなく、動きのスピードやスムーズさ、選手の表情や代償運動も観察します。

自分で関節を動かそうという意思がなかったり、AROMをチェックしているときに何らかの問題がある場合には、プレー継続できる状況ではない場合が多いのでサイドラインなどに移動してより詳細な評価が必要です。

関節可動域検査は本来、理学療法士さんなどが角時計などを使用して測定するものですが、SALTAPSの場合にはピッチ上での評価になるので目での評価になります。

P: Passive Range of Motion 他動関節可動域

SATAPSのPは「PROM 他動関節可動域」の頭文字のPです。

AROMでは選手自身が動かしますが、PROMではアスレティックトレーナーなどの他人が関節を動かします。

関連する関節の周囲をリラックスし、AROMと同じように可動範囲や選手の表情などを観察します。

AROMと違い、PROMではアスレティックトレーナーが選手に触れながら関節を動かすため関節を動かしているときの感覚が左右で違いがないかを確認できます。

特に関節を動かしているときのクリックする感覚や最終可動域でのエンドフィールはPROMで重要な評価項目です。

最終可動域でのエンドフィールは、各関節の動きによってノーマルとアブノーマルなものがあるため、各関節の動きでどのような感覚がノーマルで、何がアブノーマルなのかを知る必要があります。

さらに、アブノーマルの感覚によって、靭帯や軟骨、筋などのどの組織に問題があるのか推測する材料になるため、スポーツ現場で活動するアスレティックトレーナーはエンドフィールについてはしっかりと覚える必要があります。

学生トレーナーの方でエンドフィールについてしっかりと学びたいと考えているのであれば、理学療法士さんまたは柔道整復師さんから学ぶのが僕はオススメしています。

S: Strength 筋力

SALTAPSの2つ目のSは「Strength 筋力」の頭文字のSです。

二次評価ではRROMやMMTにあたります。

RROMとは、Resistive Range of Motionの略で抵抗関節可動域です。

関節可動域には自分で動かすAROM、他人が動かすPROM、そして抵抗をかけるRROMの3種類があります。

MMTとは、Manual Muscle Testingの略で徒手筋力検査です。

RROMとMMTは同じように扱っているドクターやアスレティックトレーナー、理学療法士さんもいらっしゃいますが、厳密には異なります。

MMTでは、各筋の筋力を徒手で抵抗をかけて検査する方法で焦点は各筋肉ですが、一方、RROMでは、各関節の1つの面における動きに抵抗をかけたときの可動域と筋力を検査します。

RROMでは各関節の1つの面で評価しますが、MMTでは、同時に動かす関節や面の数については限定がありません。

SALTAPSでは、サッカー指導者がプレー継続できるかを判断できるように簡易的な評価ツールとして考えられた評価法なので、RROMとMMTの違いなどを考慮せずに、その言葉の通り、どれくらい筋力を発揮できるかを評価します。

実際には、「力入る?」「この力に耐えれる?」と抵抗をかけながら評価します。

「力入る?」とやる方法を「Make Test (メイクテスト)」

「この力に耐えれる?」とやる方法を「Break Test(ブレイクテスト)とそれぞれ呼ばれいています。

SALTAPSとのボクの出会い

私自身、東京リゾート&スポーツ専門学校に通いながら、母校の高校のラグビー部で学生トレーナーとして活動していたときに同じ悩みを抱えていました。

残念ながら母校のラグビー部ではトレーナーを雇っていなかったのでスポーツ現場で学ぶことができませんでした。

また、専門学校や教科書で学ぶ評価方法は、緊急かどうかの評価方法である初期評価や医師の診察と同じ手順である二次評価の7つのステップでした。

自分自身ではこの初期評価と二次評価のスキルに課題があると考え、専門学校の講師の先生方には質問せず、自分自身で工夫しながらピッチ上での評価をしていましたが、何かが足りない、もしくは別の方法があるのではないかと悩んでいました。

今、思えば早く専門学校の先生に質問すればいいだけなのですが…

試合中にケガが起きた時にどうトレーナーの方々が評価しているかを見て学ぼうとしましたが、学ぶことは多くありましたが、残念ながら根本的な解決にはなりませんでした。

東京リゾート&スポーツ専門学校の研究科に進学し、非常勤講師をされていた山本晃永先生にSALTAPSという評価法について説明していただき、試合中でのケガでプレー継続できるかどうかを判断するための評価に関連する悩みを解決することができました。

私自身がSALTAPSについて学ばせていただいた山本先生の本「サッカー小中高生のためのメディカル・サポート」でもSALTAPSについて解説されていますので、ぜひ気になる方は本を購入して読んでいただけたらと思います。

試合中にプレー継続できるかどうかを判断するためのステップ

実際に試合中にプレー継続できるかどうかを判断するためのステップとしては、SALTAPSでは足りません。

サッカーの試合中に選手が倒れ、指導者がピッチ上に入った場合には、選手はプレー継続するためには、一度ピッチの外に出る必要があります。

ピッチ上でSALTAPSを実施し、問題がなければ選手は歩いてピッチの外に一回出ます。

もしくは、試合の進行を優先している場合には、担架で安全に搬送できると評価された時点で、担架に乗せて、ピッチの外に出します。

担架でピッチの外に出された場合には、まだSALTAPSの評価が終わっていないためSALTAPSの評価を再開しますが、ピッチ上でSALTAPSを評価して問題がないと判断し、ピッチの外に出した場合には、プレー継続できるかの判断をするために最終的な評価を実施します。

SALTAPSには含まれていないプレー継続できるかを判断するための最終的な評価とは、機能と特異性の評価です。

機能と特異性の評価は、競技や選手個々、そして受傷部位などによって評価の方法や判断基準は変わります。

サッカーの試合中に起こるケガのほとんどは下肢なので、機能と特異性の評価として、

  • ジョギング
  • ペースを上げたランニング
  • ダッシュ
  • 減速
  • ストップ動作
  • 方向転換
  • ジャンプ&着地、連続ジャンプ

などが代表的です。

SALTAPSがより詳細な評価には適していない理由

SALTAPSはあくまでもプレー継続できるかを判断するための評価方法です。

SALTAPSがより詳細の評価には適していない理由としては、

  • 問題がないことを確認しながら進行していく評価方法
  • より詳細の評価には時間が必要

主に上記の2つの理由があるので、それぞれ簡単に説明します。

理由① 問題がないことを確認しながら進行

より詳細の評価は、どのような症状や徴候があり、どんなケガをしているかの現状をしっかり把握した上で適切な判断を実施することが目的です。

一方、SALTAPSはプレー継続できるかを判断するための評価方法になるため、基本的にはプレーを継続する上で問題がないかを確認します。

SALTAPSで評価しているときにプレーを継続する上で何か問題があれば、SALTAPSは終了します。

プレーを継続できないのであれば、ケガの現状を把握し、適切な対応ができるようになるべく多くの情報を収集できる評価方法を実施する必要があるため、SALTAPSは適していません。

理由② より詳細の評価には時間が必要

サッカーの試合中にケガ人が出た場合には、ケガの評価をしているときには人数的に不利な時間帯になってしまうため、素早く評価する必要があります。

素早く評価するためにSALTAPSは簡易な評価方法として開発されたため、ケガの現状をしっかりと把握するためのより詳細の評価にはそこまでの時間の制限はありません。

時間の制限がないにも関わらず、時間の制限があり、素早く評価するために開発されたSALTAPSという評価方法を選んで評価する必要はありません。

より詳細の評価をアスレティックトレーナーが実施するためには、医師が病院で患者さんを診察する時と同じ手順で評価するのが一番です。

より詳細の評価に適しているHOPS

医師の診察と同じ手順でアスレティックトレーナーが評価する方法として代表的なのが、HOPSです。

HOPSとは、

  • History: 問診
  • Observation: 視診
  • Palpation: 触診
  • Special Tests: スペシャルテスト

の頭文字をとった評価方法です。

問診、視診、触診はSALTAPSのALTの部分と同じですが、HOPSでは、より細かく評価します。

基本的には、SALTAPSはHOPSで特に重要な項目をピックアップして評価しています。

スペシャルテストは、評価の中で問診・視診・触診に含まれない評価項目です。

医師の診察では、レントゲン検査や血液検査、尿検査などもこのスペシャルテストに含まれます。

HOPSでのスペシャルテストは、問診・視診・触診以外になり、カバーすることが多く、私にとっては分かりにくいので、二次評価を実施するためにはHOPSではなく7つのステップを私は活用しています。

  1. 問診
  2. 視診
  3. 触診
  4. 関節可動域検査
  5. 関節安定性/関節不安定性/靭帯テスト
  6. スペシャルテスト
  7. 神経学的検査

チームでフルタイムのアスレティックトレーナーとして働く場合には、ほとんどの場合が医師の前にアスレティックトレーナーが評価しますが、中学校や高校などフルタイムでアスレティックトレーナーが活動していない場合には、アスレティックトレーナーが医師の診察後に評価する場合も多くあります。

このように医師の診察後、アスレティックトレーナーが評価する場合には、医師が実施したスペシャルテストの結果も含めて聞く必要があります。

もちろん、フルタイムでも、フルタイムでなかったとしても、医師とアスレティックトレーナーが連携をとり、情報を共有しておくことは重要です。

選手が医師の診察を受け、アスレティックトレーナーが実際に選手の評価をする前にアスレティックトレーナーと医師が情報を共有していたとしても、選手自身から診察の結果がどのような内容だったのか、医師からどう説明されたのか、医師や理学療法士などからどのようなアドバイスをもらったのかを評価のときに確認することは重要です。

二度手間だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、医師や理学療法士から説明された内容を選手本人がどこまで理解しているのかを把握することができます。

理解が不十分であったり、アドバイスを忘れていたりした場合には、再度、選手に伝えて理解を深められるようにサポートします。

SALTAPSのまとめ

SALTAPSとは、イギリスでサッカーの試合を継続できるかどうかを判断するために考えられた評価方法です。

このSAPTAPSは、サッカー指導者だけではなく、アスレティックトレーナーが試合中や練習中、またはトレーニング中にプレーやトレーニングが継続できるかどうかを判断するための評価方法として役立ちます。

ケガの状況を見て、問診、視診、触診、AROM、PROM、そして筋力を評価するのがSALTAPSです。

なるべく早くプレーが継続できるかを判断するためのSALTAPは、しっかりと現状を把握して、適切な対応をするための評価としては適切ではありません。

あくまでも、SALTAPSは早くプレーが継続できるかどうかの判断するためのものであり、プレーが継続できないような問題、あるいはその疑いがある場合には、SALTAPSを中断し、二次評価でより詳細な評価をするための適切な評価方法を選択する必要があります。

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ABOUT US
ジンノウチ シュンアスレティックトレーナー
NPO法人スポーツセーフティージャパンに所属。 2011年に米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)になり、2013年にスポーツ医学/ バイオメカニクスで修士課程を修了し、日本に帰国。 選手や保護者など一般の方を対象に、スポーツ関連脳振盪の啓発のため、Facebookで「脳振盪ネットワーク」のページを運営。「脳振盪ハブ」では、スポーツ現場で活動するスポーツ医科学の専門家に向けて情報を発信中。