倒れてからAEDの電気ショックまで何分?EAPシミュレーション訓練での6つのチェックポイントを紹介

スポーツ現場でAEDをどのように配置すればいいのか、わからない…

スポーツ現場で突然心停止が起こった場合にAEDを使って迅速に対応できる環境って、どうチェックすればいいの?

EAPのシミュレーション訓練ではAEDに関してのチェック項目にはなにがあるの?

今回の記事では、「EAPのシミュレーション訓練でのAEDのチェックポイント」について解説します。

EAPシミュレーション訓練とは

EAPシミュレーション訓練とは、EAP(緊急時対応計画)に基づいてスポーツ現場で起こる緊急時を想定して、スポーツ現場にいる人が適切に、そして迅速に対応できるかを検証するために実施する訓練です。

EAPシミュレーション訓練では、作成したEAPに問題がないか、迅速に適切に対応できているかを検証し、問題点などがあれば、EAPを改善して完成させます。

EAPシミュレーション訓練で想定する緊急時には、突然心停止や頭頚部外傷、労作性熱射病、アナフィラキシーショック、大量出血、四肢の外傷などが含まれますが、これらに限ることはありません。

これらの緊急時に必要なヒトやモノがしっかりと配置されているのか、各緊急時に対して適切な手順で連携しながら対応しているかを確認するため、起こり得る緊急時のケースで検証する必要があります。

倒れてからAEDの電気ショックまでの時間

スポーツ現場でのほとんどの重大事故は、突然心停止(HEART)・頭頚部外傷(HEAD)・労作性熱射病(HEAT)の英語の頭文字をとったトリプルH、または3つのHです。

私が所属しているNPO法人スポーツセーフティージャパンでは、このトリプルHとEAPを中心にアスレティックトレーナーなどのメディカルスタッフと運営スタッフを中心にチームに対してEAP研修を実施しています。

ジンノウチ

EAPについては、下記の記事でしっかりと解説しているので、EAPについてあまりわからないという方はぜひ読んでください。

このトリプルHの中で最も発生しているのが突然心停止です。

高校で起こったスポーツ事故の内、心臓に関連するのは48%だったと山中らは報告しています。

スポーツ現場で心臓に関連する重大事故への救急対応として重要になるのがAEDによる迅速な電気ショックです。

倒れてからAEDの電気ショックまでの時間は救命率に関連し、1分で7~10%低下すると言われています。

ジンノウチ

AEDについては、下記の記事で詳しく解説しています。

スポーツ現場では、倒れてからAEDの電気ショックまでの時間を3分から5分以内と推奨され、3分以内で電気ショックをすることが理想とされています。

EAPのシミュレーション訓練では、突然心停止が起こったと想定した緊急時に、倒れてから何分で電気ショックを与えられているかを検証し、3分以内でできるような体制を整えられるようにします。

もちろん、すべてのスポーツ現場で理想な体制を整えるのは難しいですが、理想の3分に近づけるために改善点がないかを関係者全員で取り組むことが大切です。

私がアメリカの高校でヘッドアスレティックトレーナーとして活動していたときの話になりますが、アスレティックトレーナーがバレーボールの試合中をカバーしているときに野球の練習で突然心停止が起こったという想定でシミュレーション訓練をした場合に、電気ショックを与えるのに4分15秒かかりました。

このときはコーチがEAPの発動をするまで時間がかかっていたため、この時間を短縮することで3分以内にすることはできませんでしたが、アスレティックトレーナーの緊急時の移動を短縮するという課題をアスレティックトレーナー、コーチングスタッフ、アスレティックディレクターが共通認識し、解決策として「ゴルフカートの購入」ということになりました。

残念ながら予算の関係で次のシーズンでの購入になりましたが、決裁者であるアスレティックディレクターがEAPのシミュレーション訓練に参加したことによって、「ゴルフカートの必要性」を自ら体感してもらうことで購入につながりました。

EAPのシミュレーション訓練は完璧に緊急時の手順ができているのかを確認するためのものというよりかは、どのように緊急時の救急対応の体制を改善できるかというチームワークを高めるための機会と捉えています。

AEDの電気ショックをするまでの時間を最短にするためのチェックポイント

EAPのシミュレーション訓練を実施する際には、傷病者が倒れてからAEDの電気ショックをするまでの時間を最短にするためのチェックポイントがあります。

  1. 傷病者が倒れてから第一発見者が発見するまでの時間
  2. 第一発見者が傷病者を発見してから意識を確認するまでの時間
  3. 傷病者が倒れてからEAPを起動するまでの時間
  4. EAPを発動してからAEDが現場へと向かう時間
  5. 傷病者が倒れてから傷病者の元へAEDが到着するまでの時間
  6. 傷病者が倒れてからAEDの電気ショックボタンが押されるまでの時間

1. 倒れてから発見するまでの時間

倒れてからAEDの電気ショックまでの時間を短くするためには、倒れたことに気づく(発見)までの時間をチェックする必要があります。

バスケットボールや、サッカー、野球、ラグビーのように固定競技であれば、試合中の場合には誰かが倒れれば、誰かがすぐに発見されるのでここではあまり短くすることはできません。

ただし、マラソンやトレーニングなどで同じ場所を走らずに倒れたことに気づくことができないような環境の場合には、安全管理体制を構築する上で、どのように選手たちを観察し、異変に早く気づけるかが重要になります。

また、固定競技であれば試合中のフィールドやコート上であれば、誰かがすぐに気づくことができますが、トイレやシャワー、ロッカールームなどであれば、発見が遅れる場合があります。

2. 発見から意識の確認までの時間

傷病者を発見してから、初期評価では緊急時かどうかを判断するためにはまず安全を確認してから傷病者に近づき、意識を確認します。

ジンノウチ

初期評価のステップについては下記の記事で解説しています。

発見してから第一発見者が近づいて意識を確認するまでの時間は、誰もが第一発見者になりえるので、緊急かどうかを判断するためのチェックポイントである意識の確認までスムーズにできるように教育することが重要です。

傷病者が倒れているのを発見したときに、何をやらなければいけないのかを理解して、アクションがとれているかを確認します。

3. 倒れてからEAP発動までの時間

意識を確認するまでの時間が早かったとしても、緊急時と判断し、EAPを発動するまでの時間がかかってしまっていたら、AEDの電気ショックするまでの時間は長くなってしまいます。

傷病者が倒れたときに、どのような状況だとEAPを起動する必要があるのかをスポーツ現場にいるアスレティックトレーナーなどのメディカルスタッフだけではなく、選手たちやコーチングスタッフ、運営スタッフなども含めて理解して、必要なアクションができるかが重要です。

4. EAP発動からAEDが現場へ向かう時間

次に緊急時と判断し、EAPが発動してからAEDが現場へ向かう時間を検証します。

置いてあるAEDまでの距離、AEDを取りに行く手段、EAPを起動してからAEDを取りに行く人への連絡手段などを検討する必要があります。

もし置いてあるAEDに取りに行く場合には、1分以内に取りに行けるようにAEDを配置する必要があります。

私がフルタイムアスレティックトレーナーとして活動している場合には、チーム活動中は常にAEDと一緒に動くことによって、このEAP発動からAEDが現場へ向かう時間を最小限にしていました。

5. 倒れてからAEDが到着するまでの時間

AEDの電気ショックするためには、当たり前ですが、AEDが現場に到着したら使用する必要があります。

AEDが到着してからAEDの電気ショックまでの時間も最小限にするために把握したいので、AEDが到着するまでの時間とAEDの電気ショックまでの時間に分けるようにしています。

6. 倒れてからAEDの電気ショックまでの時間

AEDが到着してからAEDの電気ショックまでの時間は、1分以内とされています。

AEDを要請している緊急時なので胸骨圧迫をしていると思いますが、アメリカンフットボールやアイスホッケー、野球のキャッチャーなど防具が胸骨圧迫やAEDの使用に邪魔になるのであれば、迅速に外す必要があります。

この防具の外すのにも時間がかかってしまうことがあるので、EAPシミュレーション訓練で適切に、そして迅速に対応できているかを確認し、スムーズに連携してできるように練習する必要があります。

参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT US
ジンノウチ シュンアスレティックトレーナー
NPO法人スポーツセーフティージャパンに所属。 2011年に米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)になり、2013年にスポーツ医学/ バイオメカニクスで修士課程を修了し、日本に帰国。 選手や保護者など一般の方を対象に、スポーツ関連脳振盪の啓発のため、Facebookで「脳振盪ネットワーク」のページを運営。「脳振盪ハブ」では、スポーツ現場で活動するスポーツ医科学の専門家に向けて情報を発信中。