「スポーツ現場でAEDをどのように配置すればいいのか、わからない…」
「スポーツ現場で突然心停止が起こった場合にAEDを使って迅速に対応できる環境って、どうチェックすればいいの?」
「EAPのシミュレーション訓練ではAEDに関してのチェック項目にはなにがあるの?」
AEDとは?
AEDとは、英語の「Automated External Defibrillator」の略称で、日本語では自動体外式除細動器と呼ばれています。
血液を体内へと流すポンプ機能が心臓にはありますが、心臓がけいれんを起こし、十分に血液を体内へと送り込めない状態である心室細動に対して、心臓に電気ショックを与えて、心臓を止めて、自然に心臓が正常なリズムに戻るために使用される医療機器です。
2004年7月から医療従事者ではない非医療従事者の一般の市民でもAEDを使用できるようになり、駅や空港、学校などの公共機関や自治体、民間の企業でもAEDを設置するように推奨されています。
例えば、スポーツ現場では、スポーツ中の心停止やスポーツ後1時間以内のスポーツ関連死を防ぐためにAEDを設置するように推奨されています。
運動中は心停止が起こるリスクは17倍と言われています!
AEDの電気ショックが有効な心停止
ヒトの心臓が止まる理由には様々ありますが、AEDの電気ショックが有効な心停止の原因となるのが、「心室細動と心室頻拍」です。
心室細動や心室頻拍では、意識を失ったり、普段通りではない呼吸になるため、倒れたヒトを見つけた際には、安全を確保した上で近づいたら、「意識」と「呼吸」の2つをチェックすることが重要です。
また、AEDの電気ショックだけでなく、心臓から脳へ血液が十分に送られていない状態のため、胸骨圧迫と人工呼吸の心肺蘇生法も実施する必要があります。
心停止で倒れてしまった現場での迅速なAEDによる電気ショック
AEDによる電気ショックが必要な心停止からの救命率を上げるためには、いかに迅速にAEDの電気ショックができるかが重要になります。
心停止になって倒れてからAEDの電気ショックが与えられるまでの時間をいかに短くするかが、心停止を想定して、安全管理体制を構築できる現場では特に求められます。
心停止が起こった場合の救命率は、電気ショックが遅れれば遅れるほど低下すると言われており、1分間で約10%ずつの割合で低下すると言われています。
具体的にスポーツ現場で求められているのは、3分から5分です。
例えば、サッカーの試合中に選手が倒れた場合には、倒れてから3分から5分以内に
- 倒れた選手に気づき、近づく
- 意識と呼吸を評価し、緊急事態と判断し、救急車とAEDを要請する
- 倒れた選手には胸骨圧迫を実施する人、救急車を要請するために電話をする人、AEDを調達する人に役割分担をする
- AEDを調達する人がAEDを持ってきて、AEDを使用する
- AEDのパッドなどを装着し、AEDが心電図を分析し、指示に従って電気ショック
少なくとも上記の5つのステップを迅速にしなければなりません。
この5つのステップを迅速に対応できるためにはEAPシミュレーション訓練が必要になります。
EAPシミュレーション訓練とは
EAPシミュレーション訓練とは、EAP(エマージェンシーアクションプラン: 緊急時対応計画)に基づいて緊急時を想定して、現場にいる人が適切に、そして迅速に対応できるかを検証するために実施する訓練です。
EAPシミュレーション訓練では、作成したEAPに問題がないか、迅速に適切に対応できているかを検証し、問題点などがあれば、EAPを改善して完成させます。
EAPシミュレーション訓練で想定する緊急時には、突然心停止や頭頚部外傷、労作性熱射病、アナフィラキシーショック、大量出血、四肢の外傷(骨折や脱臼など)が含まれますが、これらに限ることはありません。
これらの緊急時に必要なヒトやモノがしっかりと配置されているのか、各緊急時に対して適切な手順で連携しながら対応しているかを確認するため、起こり得る緊急時のケースで検証する必要があります。
倒れてからAEDの電気ショックまでの時間
スポーツ現場でのほとんどの重大事故は、突然心停止(HEART)・頭頚部外傷(HEAD)・労作性熱射病(HEAT)の英語の頭文字をとったトリプルH、または3つのHです。
私が所属しているNPO法人スポーツセーフティージャパンでは、このトリプルHとEAPを中心にアスレティックトレーナーなどのメディカルスタッフと運営スタッフを中心にチームに対してEAP研修を実施しています。
EAPを研修しているのはBリーグやプロ野球などのトップチームだけでなく、体育館などの運動施設や学校など様々な団体が対象です。

EAPについては、下記の記事でしっかりと解説しているので、EAPについてあまりわからないという方はぜひ読んでください。
このトリプルHの中で最も発生しているのが突然心停止です。
高校で起こったスポーツ事故の内、心臓に関連するのは48%だったと山中らは報告しています。
スポーツ現場で心臓に関連する重大事故への救急対応として重要になるのがAEDによる迅速な心電図の分析と電気ショックです。
EAPのシミュレーション訓練では、突然心停止が起こったと想定した緊急時に、倒れてから何分で電気ショックを与えられているかを検証し、3分以内でできるような体制を整えられるようにします。
もちろん、すべてのスポーツ現場で理想な体制を整えるのは難しいですが、理想の3分に近づけるために改善点がないかを関係者全員で取り組むことが大切です。
私がアメリカの高校でヘッドアスレティックトレーナーとして活動していたときの話になりますが、アスレティックトレーナーがバレーボールの試合中をカバーしているときに野球の練習で突然心停止が起こったという想定でシミュレーション訓練をした場合に、電気ショックを与えるのに4分15秒かかりました。
このときはコーチがEAPの発動をするまで時間がかかっていたため、この時間を短縮することで3分以内にすることはできませんでしたが、アスレティックトレーナーの緊急時の移動を短縮するという課題をアスレティックトレーナー、コーチングスタッフ、アスレティックディレクターが共通認識し、解決策として「ゴルフカートの購入」ということになりました。
残念ながら予算の関係で次のシーズンでの購入になりましたが、決裁者であるアスレティックディレクターがEAPのシミュレーション訓練に参加したことによって、「ゴルフカートの必要性」を自ら体感してもらうことで購入につながりました。
EAPのシミュレーション訓練は完璧に緊急時の手順ができているのかを確認するためのものというよりかは、どのように緊急時の救急対応の体制を改善できるかというチームワークを高めるための機会と捉えています。
AEDの電気ショックをするまでの時間を最短にするためのチェックポイント
EAPのシミュレーション訓練を実施する際には、傷病者が倒れてからAEDの電気ショックをするまでの時間を最短にするためのチェックポイントがあります。
- 傷病者が倒れてから第一発見者が発見するまでの時間
- 第一発見者が傷病者を発見してから意識を確認するまでの時間
- 傷病者が倒れてからEAPを発動するまでの時間
- EAPを発動してからAEDが現場へと向かう時間
- 傷病者が倒れてから傷病者の元へAEDが到着するまでの時間
- 傷病者が倒れてからAEDの電気ショックボタンが押されるまでの時間
1. 倒れてから発見するまでの時間
倒れてからAEDの電気ショックまでの時間を短くするためには、倒れたことに気づく(発見)までの時間をチェックする必要があります。
バスケットボールや、サッカー、野球、ラグビーのように固定競技であれば、試合中の場合には誰かが倒れれば、誰かがすぐに発見されるのでここではあまり短くすることはできません。
ただし、マラソンやトレーニングなどで同じ場所を走らずに倒れたことに気づくことができないような環境の場合には、安全管理体制を構築する上で、どのように選手たちを観察し、異変に早く気づけるかが重要になります。
また、固定競技であれば試合中のフィールドやコート上であれば、誰かがすぐに気づくことができますが、トイレやシャワー、ロッカールームなどであれば、発見が遅れる場合があります。
2. 発見から意識の確認までの時間
傷病者を発見してから、初期評価では緊急時かどうかを判断するためにはまず安全を確認してから傷病者に近づき、意識を確認します。
発見してから第一発見者が近づいて意識を確認するまでの時間は、誰もが第一発見者になりえるので、緊急かどうかを判断するためのチェックポイントである意識の確認までスムーズにできるように教育することが重要です。
傷病者が倒れているのを発見したときに、何をやらなければいけないのかを理解して、アクションがとれているかを確認します。
3. 倒れてからEAP発動までの時間
意識を確認するまでの時間が早かったとしても、緊急時と判断し、EAPを発動するまでの時間がかかってしまっていたら、AEDの電気ショックするまでの時間は長くなってしまいます。
初期評価で確認するのは周囲の安全と意識の確認だけではありません。
呼吸が普段通りかを確認する必要があります。
突然心停止でEAPを発動するのが遅れてしまう原因となるのが死戦期呼吸とけいれんです。
アスレティックトレーナーやトレーニング指導者などのファーストレスポンダーとして死戦期呼吸とけいれんが心停止のサインであることを知って、緊急時と判断できるようになることはもちろんですが、第一発見者になり得る選手やクライアント、コーチ、保護者などが緊急時と判断できるように教育の機会を創ることも重要な役割の1つです。
傷病者が倒れたときに、どのような状況だとEAPを発動する必要があるのかをスポーツ現場にいるアスレティックトレーナーなどのメディカルスタッフだけではなく、選手たちやコーチングスタッフ、運営スタッフなども含めて理解して、必要なアクションができるかが重要です。
4. EAP発動からAEDが現場へ向かう時間
次に緊急時と判断し、EAPが発動してからAEDが現場へ向かう時間を検証します。
置いてあるAEDまでの距離、AEDを取りに行く手段、EAPを発動してからAEDを取りに行く人への連絡手段などを検討する必要があります。
もし置いてあるAEDに取りに行く場合には、1分以内に取りに行けるようにAEDを配置する必要があります。
私がフルタイムアスレティックトレーナーとして活動している場合には、チーム活動中は常にAEDと一緒に動くことによって、このEAP発動からAEDが現場へ向かう時間を最小限にしていました。
5. 倒れてからAEDが到着するまでの時間
AEDの電気ショックするためには、当たり前ですが、AEDが現場に到着したら使用する必要があります。
AEDが到着してからAEDの電気ショックまでの時間も最小限にするために把握したいので、AEDが到着するまでの時間とAEDの電気ショックまでの時間に分けています。
倒れてからAEDが到着するまでの時間を短くするための取り組みの1つとして、日本AED財団が提案している「RED SEAT」システムがあります。
この「RED SEAT」は、スポーツ観戦中の心停止による死亡者を亡くすために考案されたシステムで、ラグビーやサッカーなどのトップレベルの試合で活用されています。
6. 倒れてからAEDの電気ショックまでの時間
AEDが到着してからAEDの電気ショックまでの時間は、1分以内とされています。
AEDを要請している緊急時なので胸骨圧迫をしていますが、アメリカンフットボールやアイスホッケー、野球のキャッチャーなど胸骨圧迫やAEDの使用に邪魔になる防具は、迅速に外す必要があります。
この防具の外すのにも時間がかかってしまうことがあるので、EAPシミュレーション訓練で適切に、そして迅速に対応できているかを確認し、スムーズに連携してできるように練習する必要があります。
今回の記事では、「EAPのシミュレーション訓練でのAEDのチェックポイント」について解説します。