「EAPってよく聞くけど、今さらEAPって何ですかと聞きにくいんだけど…」
「EAPは具体的にどうスポーツ現場で使われているの?」
今回記事では、「EAPについて、どのようにスポーツ現場で活用しているか」について解説します。
EAP(エマージェンシーアクションプラン)とは?
EAPとは、Emergency Action Planという英語の頭文字をとったもので、日本語では、緊急時対応計画と呼ばれています。
スポーツ現場で緊急時にどのように対応するかを事前に計画し、初めて会場に来た人でも緊急時に遭遇した場合に迅速に対応できるように一目で分かりやすくまとまったシートです。
EAPに記載する項目
EAPには、下記の項目を記載することで、初期評価で緊急と判断してEAPを発動してから迅速かつ適切に対応し、医療従事者などの専門家への引き渡し、または医療機関へ搬送することができます。
- 緊急時の責任者、連絡先
- AEDや担架などの救助器具や搬送器具などの設置場所
- 会場の住所と目印
- 最寄りの医療機関の情報
- 救急車の搬入経路が示されている会場の見取り図
他にも大会であれば、大会ドクターや看護師などのメディカルスタッフの待機場所や救護室の場所なども記載が必要になります。
スポーツ現場でのEAP活用方法
アスレティックトレーナーがスポーツ現場でEAPを活用するには3つのステップがあります。
- EAPの作成
- EAPに基づくシミュレーション訓練の実施
- 当日のEAPハドルの実施
1. EAPの作成
練習やトレーニング会場など自チームで実施するためのEAPは、当然、アスレティックトレーナーとして作成する必要があるため、EAPに記載する必要のある情報を入手したり、必要なモノを揃えたり、最寄りの病院などを含めた安全管理体制を整える必要があります。
また、アウェーでの試合などでは、アウェーチームや大会運営者、施設管理者がEAPを作成してくれている場合には、自チームの情報を記載してEAPを完成させます。
同じ会場でも、練習や試合をする場合や、平日や休日などでは会場のレイアウトや最寄りの医療機関の情報が変わる場合があるため、その都度、このEAPを作成する必要があります。
EAPを作成するのは、基本的にはアスレティックトレーナーだけではなく、必要であれば、施設管理者や大会運営者、指導者になりますが、指導者のいないスポーツ現場では選手自らが作成する必要があります。
EAPはアスレティックトレーナーなどの専門家がいるから作成しなければならないというものではなく、すべてのスポーツ現場で作成する必要があるものと捉えることが重要です。
学校やスポーツでの突然死をゼロにするために取り組んでいる公益財団法人日本AED財団では、学校での突然死をゼロにするための様々な活動の一環として、学校やスポーツ現場でのEAPを作成し、ダウンロードできるようにテンプレートを用意し、スポーツ現場でのEAP作成ガイドラインをホームページで無料で提供されています。
基本的には、EAPの作成は前日までに完成させ、当日の会場で確認するというステップです。
また、残念ではありますが、まだまだ日本ではこのEAPは認知され始めてはいますが、普及されているとは言えない状況です。
スポーツ現場で緊急時になった場合に、EAPがなく、その場で必要な情報を収集することになり、迅速な対応ができなくなってしまいます。
緊急時ではなく、時間をかけても大丈夫なものであれば問題ありませんが、スポーツ現場での緊急時の場合には、対応する時間は一刻を争います。
2. EAPに基づくシミュレーション訓練の実施
スポーツ現場でのEAPを作成したら、緊急時にEAPが実際にスムーズに機能するかを検証する必要があるため、シミュレーション訓練を実施します。
シミュレーション訓練では、少なくとも年に1回実際に練習や試合、トレーニングをする会場で実施する必要があります。
心停止や頭頚部外傷、労作性熱射病などスポーツ現場で起こる緊急時を想定して、しっかりと知識とスキルを持っている人が、必要な救助器具や搬送器具を使用して適切に迅速に対応できる体制かを検証します。
シミュレーション訓練では、実際の現場にいる人がなるべく全員参加する必要があるため、シミュレーション訓練で検証しているときにチェックする人は、実際の現場にいない人が担当する必要があります。
アメリカの大学では、アメリカンフットボールにはヘッドアスレティックトレーナーが担当し、アシスタントアスレティックトレーナーは基本的にはアメリカンフットボールの活動には関与しないので、アメリカンフットボールにおけるEAPのシミュレーション訓練では、アシスタントアスレティックトレーナーがチェック係を担当していました。
3. 当日のEAPハドルの実施
大会や試合などでは、このEAPを元に関係者が試合前に集まり、緊急時にどのように対応するかを話し合うミーティングを実施しています。
この試合前に関係者が緊急時にどのように対応するかを話し合うミーティングのことを私が所属しているNPO法人スポーツセーフティージャパンでは分かりやすくするために、EAPハドルと呼んでいます。
試合前にいつ集まるかは、団体によって微妙に違います。
私がアメリカのラスベガスで活動していた高校では試合の30分前に設定されていましたが、NFLではキックオフの60分前に設定されています。
また、試合前にいつ集まるかも微妙に違いますが、呼び方も多少の違いがあります。
アメリカのアスレティックトレーナーの団体であるNational Athletic Trainers` Association (NATA: 米国アスレティックトレーナーズ協会)では、メディカルタイムアウト/ EAPタイムアウトと呼んでいます。
また、日本では、日本ラクロス協会がSafety Time Outと呼んでいます。
このEAPハドルに参加する関係者というのは、
- 両チームのメディカルスタッフの責任者
- 試合の審判
- 大会の責任者
- 大会ドクター
- 試合会場の施設管理責任者
- 救急隊員
などが含まれます。
救急隊員については、日本の場合には市区町村など行政が主催者の場合には試合会場に待機する場合がありますが、ほとんどの試合や大会の会場には待機していない、または民間の救急車と救急隊が待機しているかと思います。
私が救護スタッフとして活動しているトレイルランの大会では市区町村が主催者もしくは地域振興のイベントの1つとして位置づけられているため、スタート地点またはゴール地点に待機してくれている体制を整えてくださっているので本当に助かります。
EAPハドルを実施する際に救急隊員がいない場合には、事前に消防署に行き、EAPについて説明しに挨拶に行くことが大切です。
EAPのまとめ
EAPとは、エマージェンシーアクションプランの略で緊急時対応計画のことを言います。
事前に試合や練習、トレーニングのときに緊急時になった場合に必要な情報を集めておき、どのように対応するかを分かりやすくまとめられた1枚の紙になります。
スポーツ現場で緊急時になった場合に、迅速に対応できるようにするために、アスレティックトレーナーは、しっかりとEAPを作成、または確認して、スポーツ現場にいる人たちとEAPに記載されている情報を共有する必要があります。
チームでは、メディカルスタッフだけではなく、選手やコーチングスタッフ、チームや試合の運営スタッフと一緒にEAPに基づくシミュレーション訓練を実施して、EAPを検証する必要があります。
試合や大会などでは、大会側や相手チームのメディカルスタッフや救急隊員などと緊急時に親密に連携できるように試合前にEAPハドルを開催して、顔合わせや最終確認をする必要があります。
特に、EAPについてはアスレティックトレーナーがEAPを作成すればいいというものではなく、作成したEAPを基にチーム全体、または会場全体の緊急時における救急対応の体制を整えるために活用する必要があります。
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