ラグビーのHIAにおける脳振盪の既往歴について

スポーツ関連脳振盪を管理する上で、選手の脳振盪の既往歴をベースラインテストで把握をし、脳振盪を受傷した際には、その選手の脳振盪の既往歴を考慮して競技復帰を段階的に進める必要があります。

今回の記事では、ラグビーの脳振盪の既往歴の定義について解説します。

「どうして脳振盪の既往歴について解説するの?既往歴なんだから、過去に脳振盪を受傷したことがあるのか、あるのであれば何回したのか、どれくらい復帰するのに時間がかかかったのか?なんじゃないの?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

World Rugby HIAのプロトコルでの脳振盪の既往歴の定義とは

World Rugbyは頭部外傷の評価に関するHead Injury Assessment (HIA) のプロトコルでは、脳振盪の既往歴を定義しています。

World Rugbyでは、単純に脳振盪をしたことがあるのか、ないのかではありません。

ベースラインで下記の6つの項目を確認して、脳振盪の既往歴があるかどうかを把握します。

脳振盪の既往歴の定義
  1. 過去3ヶ月以内に脳振盪を受傷した
  2. 過去12ヶ月以内に3回以上の脳振盪を受傷した
  3. 5回以上脳振盪を受傷している
  4. 衝撃閾値の低減が指摘されている
  5. 心理的な問題を合併した脳振盪の既往がある
  6. 回復が長引いた(21日以上)脳振盪の既往がある

参考までに下記に英語での定義も記載させていただきます。

World RugbyのHIAプロトコルを全文、読みたい方はこちらからぜひ読んでみてください。

Concussion History Definition
  1. Concussed within last 3 months
  2. Three or more concussions in the last 12 months
  3. Five or more career concussions
  4. Reduced impact threshold noted
  5. Any previous concussion complicated by psychological issues
  6. Previous concussion with prolonged recover (> 21 days)

脳振盪の既往歴があるラグビー選手への対応

シーズンが始まる前に実施するベースラインテストで上記の定義に当てはまるラグビー選手は、脳振盪の既往歴があると判断されます。

シーズン中に脳振盪を受傷した場合には、脳振盪の既往歴がない選手よりも、リハビリテーションをゆっくりと進め、復帰に時間をかけるようにしています。

これは、スポーツ関連脳振盪の再発や脳振盪後の症状遷延の予防を目的に実施されています。

他のスポーツ選手への応用

World RugbyのHIAプロトコルでの脳振盪の既往歴を他のスポーツの選手にも応用することができます。

ベースラインテストで脳振盪があるかどうかを把握し、脳振盪がある場合には、

  • 受傷したのはいつか?
  • 何回受傷したことがあるのか?(3ヶ月以内、12ヶ月以内)
  • 競技復帰するのにどれくらいの期間がかかったのか?
  • 心理的な問題を抱えたのか?
  • 衝撃閾値の低減を感じているか、指摘されたことがあるのか?

私は上記に加えて、ベースラインテストで脳振盪を受傷したことがある選手に対しては、脳振盪から競技復帰してから1年以内にどのような外傷・障害を受傷したかを確認するようにしています。

脳振盪を受傷した場合には、脳振盪の再発リスクだけではなく、整形外科的なケガやメンタルヘルスのリスクも高まることが指摘されています。

また、注意しなければならないのは、ベースラインテストで脳振盪の既往歴を確認する際に、選手本人、もしくは未成年の場合には保護者も含めて、脳振盪とはどういうものなのか(脳振盪の定義)、脳振盪の症状や徴候を理解している必要があります。

脳振盪の既往歴を申告してもらうためには、脳振盪に関する最低限の知識を教育してベースラインテストを実施する必要があります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT US
ジンノウチ シュンアスレティックトレーナー
NPO法人スポーツセーフティージャパンに所属。 2011年に米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)になり、2013年にスポーツ医学/ バイオメカニクスで修士課程を修了し、日本に帰国。 選手や保護者など一般の方を対象に、スポーツ関連脳振盪の啓発のため、Facebookで「脳振盪ネットワーク」のページを運営。「脳振盪ハブ」では、スポーツ現場で活動するスポーツ医科学の専門家に向けて情報を発信中。