「国際スポーツ脳振盪会議って聞くけど、いったいどんな会議なの?」
「今までどんな場所でいつ開催されてるの?」
今回の記事では、スポーツ関連脳振盪の最新情報を得るには欠かせない「国際スポーツ脳振盪会議」について解説します。
誰が国際スポーツ脳振盪会議を開催しているのか?
2001年からスポーツに関連する脳振盪について国際会議がスポーツ脳振盪グループによって各オリンピック・パラリンピックの開催に合わせ同年または翌年に4年に一度開催されています。
IOC(国際オリンピック委員会)、FEI(国際馬術連盟)、FiA (国際自動車連盟)、FIFA(国際サッカー連盟)、IIHF(国際アイスホッケー連盟)、WR(ワールドラグビー)の6団体が共催している会議です。
いつ国際スポーツ脳振盪会議は開催されていたか?
- 2001年第1回国際スポーツ脳振盪会議@ウィーン
- 2004年第2回国際スポーツ脳振盪会議@プラハ
- 2008年第3回国際スポーツ脳振盪会議@チューリッヒ
- 2012年第4回国際スポーツ脳振盪会議@チューリッヒ
- 2016年第5回国際スポーツ脳振盪会議@ベルリン
- 2020年第6回国際スポーツ脳振盪会議@パリ 注)新型コロナウイルス感染症により延期
- 2022年第6回国際スポーツ脳振盪会議@アムステルダム
国際スポーツ脳振盪会議の目的とは?
この国際スポーツ脳振盪会議の目的は、「スポーツで脳振盪を負った選手の安全確保と健康改善であり、プロフェッショナル、アマチュアを問わず、選手の状態を正しく評価し、安全にスポーツに復帰させることを目指すこと」とされています。
国際スポーツ脳振盪会議の同意声明と脳振盪の評価ツール
この国際スポーツ脳振盪会議で議論された内容は、スポーツや競技レベルに関係なく、スポーツに関わる医師や医療従事者などのメディカルスタッフのために同意声明が作成され、公開されます。
日本では、ありがたいことに日本脳神経外傷学会からこの同意声明と評価ツールの翻訳版が出る流れになっています。
この脳振盪の評価ツールは、スポーツ脳振盪グループによって研究が進み、SCAT (Sport Concussion Assessment Tool)という名称で、問診が中心で特別な機械などが必要なく、どのスポーツ現場でも使用可能で、使用が推奨されています。
ただし、脳振盪を評価する際にはSCAT以外の評価方法と併用することも推奨されているため、SCATだけで脳振盪を評価できるということではない点は注意しなければなりません。
第5回国際スポーツ脳振盪会議での同意声明にある脳振盪の評価ツールには3種類あります。脳振盪を評価する人と評価される選手の年齢によって使用する評価ツールを選ぶ必要があります。
- 13歳以上を対象にしたSCAT5
- 5歳から12歳を対象にしたChild SCAT5
- 専門家ではない一般の方が使用できるCRT (Concussion Recognition Tool)
2016年の第5回国際スポーツ脳振盪会議までは、SCAT3まで改訂されており、第5回国際スポーツ脳振盪会議の同意声明でSCAT5に改訂され、SCAT4が過去に発表されていたのかとスポーツ現場のメディカルスタッフには多少の動揺がありましたが、SCATの番号を国際会議と同意声明の番号に合わせたことが理由でした。
最新の第6回国際スポーツ脳振盪会議での同意声明による脳振盪の評価ツールは、上記の3種類の評価ツールに加えて、診察室で実施するSCOAT6 (Sport Concussion Office Assessment Tool-6)が発表されました。
残念ながらまだ第6回国際スポーツ脳振盪会議で作成された日本語版の評価ツールは公開されていません。下記は英語の評価ツールへのリンクになります。
- 13歳以上を対象にしたSCAT6
- 8歳から12歳を対象にしたChild SCAT6
- 専門家ではない一般の方が使用できるCRT6
- 13歳以上を対象にしたSCOAT6
- 8歳から12歳を対象にしたChild SCOAT6
国際スポーツ脳振盪会議の事前準備と会議の流れ
国際スポーツ脳振盪会議の事前準備から会議、そして同意声明の掲載発表までの流れを第5回国際スポーツ脳振盪会議と同意声明を参考に説明します。
①1年前から事前準備がスタートし、部門ごとに担当を割り振り
- 脳振盪の定義に関し、新たな臨床的な位置づけや生体力学研究があるか
- サイドラインでの脳振盪評価について、スクリーニングとして重要な項目は何か
- サイドラインでの脳振盪診断の信頼度や感度を上げるためには、SCATや既存の関連検査にどのようなものを加えるべきか
- 外傷後にはどのような臨床機能を評価すべきか
- スポーツ関連脳振盪の評価補助となるような新しい検査法の進歩はあるか
- 脳振盪後の休養や特別な治療に関するエビデンスはあるか
- 脳振盪から回復に要する生理学的時間はどれくらいか
- 脳振盪から回復に至る鍵となる修飾因子はなにか
- 小児は成人と比べ脳振盪管理に差異があるか
- 遷延性の脳振盪後症候群の診断と治療に関して、最も良いアプローチはなにか
- スポーツで脳振盪を受傷し、長期経過後に慢性外傷性脳症や他の変性疾患が起こり得るのか、その危険因子や原因に関する科学的エビデンスの現状はどうか
- 脳振盪の危険を効果的に減少する方法はあるか
②前回までの各会議で共有されている問題の検証
③システマティックレビュー
④疑問点に答える形でのエビデンスレベルの検証
⑤テーマごとの論文作成(投稿直前の論文の状態まで作業)
⑥一般演題の公募⇒採用演題の多くはポスター発表、1つは指定演題として選出され各テーマのセッションで発表
⑦最初の2日間は公開
12のテーマについて、各テーマは1時間の持ち時間があり、
- 指定演題
- 担当者によるテーマの要約と推奨事項の基調講演
- 主担当者の司会による質問と討論
⑧3日目は非公開
各テーマに割り振られていた専門家のみ参加し、2日間での問題点を中心に議論され、同意声明を完成させるために細かい修正や追加をします。
⑨4日目は評価ツールの作成
⑩British Journal of Sports Medicine BJSMで翌年に同意声明を掲載発表
参考文献
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- McCrory P, Johnston K, Meeuwisse W, et al. Summary and agreement statement of the 2nd International Conference on Concussion in Sport, Prague 2004. British Journal of Sports Medicine 2005;39:196-204.
- McCrory P, Meeuwisse W, Johnston K, et al. Consensus Statement on Concussion in Sport: the 3rd International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2008. British Journal of Sports Medicine 2009;43:i76-i84.
- McCrory P, Meeuwisse WH, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Br J Sports Med 47: 250–258, 2013.
- McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport—the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. British Journal of Sports Medicine 2017;51:838-847.
- Meeuwisse WH, Schneider KJ, Dvořák J, et al. The Berlin 2016 process: a summary of methodology for the 5th International Consensus Conference on Concussion in Sport. British Journal of Sports Medicine 2017;51:873-876.
- 荻野雅宏,中山晴雄,重森 裕,他.スポーツにおける脳振盪に関する共同声明―第 5 回スポーツ脳振盪会議(ベルリン,2016)―解説と翻訳.神経外傷.2019; 42: 1-34.
- Patricios JS, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 6th International Conference on Concussion in Sport- Amsterdam, October 2022. British Journal of Sports Medicine 2023;57:695-711.
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