MILSとは?頭頚部固定の方法とMILSの禁忌を解説

「MILSってなんて読むの?」

「MILSってなんだっけ?」

「MILSってどういうときに、どういうふうにやればいいの?」

ジンノウチ

今回の記事では、「MILSによる正しい頭頚部固定の方法とMILSの禁忌」を解説します。

MILSを動画で学ぶ

私が「MILSによる正しい頭頚部固定の方法」を解説する前に、日本ラグビーフットボール協会が作成した安全対策関連動画の中で医師がMILSについて説明している動画があるので、動画で学びたいという方はぜひ下記の動画をご覧ください。

MILSとは?

MILSを何と呼ぶのか?「マイルズ」と呼びたくなりますが、正しくは「ミルズ」です。

MILS(ミルズ)とは、英語のManual In-Line Stabilizationの略語です。

日本語では、用手正中固定法/正中位用手固定法と呼ばれています。

  • Manual: 徒手、または用手
  • In-line: 一列に並んだ
  • Stabilization: 安定、または固定

具体的には、鼻筋と体幹の正中線を一直線に合わせ、両手でしっかりと支えることによって、この状態を保持することをMILSと言います。

MILSの目的

MILSは、頭頚部をできるだけ動かさないようにしてケガの悪化を避けるために、頭頚部と体幹のアライメントをまっすぐに保持する目的で実施します。

MILSの目的には、頭頚部の固定だけではなく、救急対応中での思いがけない頭頚部への接触を回避することと、周囲に対して頭頚部のケガが発生している可能性があることを示すことも含まれます。

頸椎カラーなどの固定器具の装着の有無にかかわらず、頸椎損傷が否定されるまでは、MILSを継続し、傷病者を移動させたり、体位変換を実施する際には特にMILSは重要になります。

MILSを実施する上で重要になるのが、不必要な頚部の動きを避けることです。

基本的に、救急対応として固定する場合には”見つかった肢位”、または楽な姿勢で固定します。

ただし、MILSの場合には頭頚部と体幹のアライメントをまっすぐに固定するため、もし頚椎が中間位(ニュートラルポジション)でない状態で見つかった場合には、ニュートラルポジションにしてからしっかりと固定するため、特にMILSを実施する際に悪化させないための知識とスキルが求められます。

すべてのケースでニュートラルポジションにしなければならないというわけではありません。

NATAポジションステートメントにおけるの3つの禁忌事項とは?

頚椎が中間位にない状態の傷病者に対して頚部を動かすことで、頚髄損傷などの大きな二次損傷を招く危険性があるため、安易に中間位に戻そうとしてはいけません。

私が所属しているアメリカのアスレティックトレーナーの団体であるNational Athletic Trainers` Association (NATA: 全米アスレティックトレーナー協会)のポジションステートメントではMILSに対して3つの禁忌事項に言及しているので、紹介します。

  • 頚椎を中間位に戻す際、痛みの増大、神経症状、筋けいれん、または気道の障害を引き起こす
  • 頚椎を中間位に戻すことが物理的に困難である
  • 頚椎を中間位に戻す際、頚部に抵抗を感じる、または傷病者が不安を訴える

ぜひ英語の論文を読める方は下記のリンク先の全文を読んでみてください。

Swartz EE, et al:National athletic trainers’ association position statement:acute management of the cervical spine-injured athlete. J Athl Train 44:306-331, 2009.

頚椎を中間位に戻すときのコミュニケーション

上記のMILSの3つの禁忌を見ていただければわかるように、頚椎を中間位に戻す際の傷病者とのコミュニケーションがとても重要になってきます。

用手頭頚部固定をして、中間位にない状態から中間位にする際には、

  • 痛み
  • 神経症状
  • 筋けいれん
  • 不安

に関しては随時コミュニケーションをして変化がないかを確認する必要があります。

また、会話しているときには、上記の項目の変化だけではなく、気道の障害についても考慮する必要があるので、呼吸の仕方や話し方、話すスピードなどにも注意する必要があります。

不安に関しては言葉でのコミュニケーションだけではなく、傷病者の表情や体の緊張具合などにも目を向ける必要があります。

会話をしながら、目で確認するだけではなく、頚椎を動かしている手の感覚も重要です。

頚部の抵抗を感じることもMILSの禁忌の1つです。

いつMILSを実施するか?

MILSは実施するタイミングとしては、下記の状況の場合です。

  • 意識を確認して、意識がないなどの頭頚部外傷の疑いがある場合
  • サイドラインなどから選手がケガをする受傷機転を目撃して、頭頚部の損傷が否定できない場合
  • 受傷した選手が頭頚部の症状を訴えている場合

ただし、自転車やバイク、スキー・スノボーなどとても大きな外力が頭頚部に加わるようなスポーツで倒れ、選手が動かない場合には、近づいたらすぐに頭頚部を固定することを優先するような救急対応の手順を決めている場合があります。

特に、国際大会の場合には、言語の問題で救護班と倒れた選手が適切なコミュニケーションができないことを想定されていることがあります。

救急対応がこのような手順になっている場合には、救護にあたるアスレティックトレーナーだけではなく、参加する選手自身にも、緊急時にどのように対応されるかを事前に説明する必要があります。

MILSによる正しい頭頚部固定の方法~側頭部を保持する方法~

MILSによる頭頚部固定が必要と判断した場合には、下記のステップで頭頚部を固定します。ここでは分かりやすくするために、仰向けで倒れている選手に対するMILSの方法を解説します。

  1. まず頭頚部と体幹のアライメントをもう一度確認する
  2. 意識がある選手に対しては頭と首を動かさないことが重要だと理解してもらうように説明する(意識がなくても、何をやっているのか、何を目的にしているのかなどを口に出しながら対応します)
  3. 倒れている選手の頭の上にひざまずきながら、うつ伏せのように横たわる※
  4. 両肘と前腕部を接地させて、肩回りの筋肉はなるべくリラックスさせる
  5. 両手で側頭部を包む込むように支える
  6. 固定を保持して気道確保しながら意識や呼吸などのバイタルサインをモニタリングする

※スパインボーディングをする際には、うつ伏せのように横たわるのではなく、両膝をつけたり、片膝をつけた状態で実施する場合もあります。

大切なのは、医師の管理下で実施することと、不必要な首の動きを避け、ケガを悪化させないことです。

MILSの注意点

MILSを実施する上での注意点がいくつかあるので、最後に触れていきます。

MILSを実施するには、頭頚部外傷を悪化させないための知識とスキルが必要であり、必ず医師などからの研修を受ける必要があります。

MILSを実施する場合に肘が浮いている状態だと、固定が動きやすくなるため、しっかりと肘を地面につける必要があります。

側頭部を保持する手で耳をふさいでしまうと声かけや指示を妨げる可能性があるため、耳をふさがないように注意します。

MILSを実施する人が何をする際には声かけや指示を出すのでリーダー、またはキャプテンになります。

また、EAPのシミュレーション訓練などで他の救助者と連携しやすくするための機会を設けることが大切です。

今回の記事では、仰向けで頚椎がニュートラルポジションのときの側頭部を保持するやり方を解説しましたが、他にも、横向きやうつ伏せ、立位/座位の場合、または僧帽筋を握って前腕部で保持するやり方もあります。

うつ伏せで寝ている傷病者に対してMILSをするために、手で側頭部を保持する際には、親指の向きに注意するようにしてください。

うつ伏せから仰向けにする際に、どの方向へ体を回すのかを考えながら、仰向けになる際に親指が空を向くように側頭部を保持するようにしてください。

さらに、MILSを交代するときやヘッドイモビライザーを装着する際には、倒れた選手の額と顎の部分を押さえる「アンテリアホールド」と呼ばれる固定法もあります。

傷病者の状況に合わせてMILSを実施するようにしてください。

実際にMILSの対応をしたスポーツ現場での対応

私が、アメリカのラスベガスでサッカーの大会をアスレティックトレーナーとして活動していたときには、立位の状態からMILSを実施したこともありました。

頭頚部外傷を疑うのはフィールド上で倒れている選手だけではありません。

試合中にヘディングで競り合って肩から地面に倒れ、首に痛みがあり、自分で立ち上がることができたので、大会の救護室まで歩いてきました。

頚椎の棘突起に圧痛があったため、頚椎の骨折の疑いがあり、立った状態でのMILSを実施しました。

その大会では私しか、アスレティックトレーナーはいなかったので救急車を呼び、救急隊員が到着するまでMILSを継続し、救急隊が到着してから頚椎カラーを装着しました。

不幸中の幸いにも骨折はありましたが、転位はなく、無事にその選手はサッカーに復帰することができました。

ありがたいことに、選手の保護者から診察後や復帰時に連絡をいただき、本人と保護者の方から誰だかわからない形でこの救急対応の話を他の方と共有してもいいと許可をいただくことができました。

専門家として、チームとしての準備

アスレティックトレーナーとして、メディカルスタッフとして、ファーストレスポンダーとしてしっかりとMILSのスキルや頚椎を中間位にする際の傷病者とのコミュニケーションの練習をして準備をすることはとても重要ですが、チームで活動している際には選手や指導者などを含めたチームとしての準備も必要になります。

特に選手にはEAPのシミュレーション訓練で実際に傷病者の役割を担ってもらい、どのような救急対応がされるのかを身をもって体験することも大切にしています。

ジンノウチ

「EAPって何?EAPのシミュレーション訓練?」という方はぜひ下記の記事を読んでみてください。

もちろん、EAPのシミュレーション訓練の前に頭と首のケガについて伝え、何のためにやっているのか、どのようなステップで救急対応が進むのかは伝えますが、知識として学び、体験してもらうことで実際に起こってしまったときによりコミュニケーションが円滑になると思っています。

EAPハドルで専門家同士の最終確認

試合や大会の当日には最終確認としてEAPハドルを行う必要があります。

実際の当日に、実際の現場で救急対応に必要なスタッフが集まり、EAPに基づいて救急対応の流れを確認します。

実際に対応するスタッフがどのような知識とスキル、バックグラウンドを持っているかによってできる救急対応も変わってきます。

また、各競技団体のガイドラインによって求められる救急対応も変わってくるので、EAPハドルで救急対応についてのボタンのかけ間違えがないことを確認することは、緊急時のコミュニケーションを円滑にするためにも必要です。

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ABOUT US
ジンノウチ シュンアスレティックトレーナー
2004年からパーソナルトレーナーとして活動。 2011年に米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)になり、2013年にスポーツ医学/ バイオメカニクスで修士課程を修了し、日本に帰国。 NPO法人スポーツセーフティージャパンでディレクターとして活動。 「レスポンダーコンパス」では、安全管理体制構築と救急対応に関する最新情報を発信中。