頚椎保護を目的とした用手頭頚部固定は頚部の動揺を制限することを目的に実施されます。
傷病者を頚椎が生理的弯曲に保たれた状態(中間位)で固定する方法を、Manual In-Line Stabilization(MILS)と呼ばれ、スポーツ現場で活動するアスレティックトレーナーやメディカルスタッフにとっては、頭頚部外傷の救急対応としては必ず身につけておかなければならないスキルの1つです。
「そもそもMILS(ミルズ)って何?MILSがわからない…」という方はまず下記の動画を見てください。
頚椎が中間位にない状態の傷病者に対して頚部を動かすことで、頚髄損傷などの大きな二次損傷を招く危険性があるため、安易に中間位に戻そうとしてはいけません。
今回の記事では、頚椎が中間位にない状態の傷病者に対してMILSをしてはいけない3つの禁忌事項について解説していきます。
NATAポジションステートメントにおけるMILSの3つの禁忌
私が所属しているアメリカのアスレティックトレーナーの団体であるNational Athletic Trainers` Association (NATA: 全米アスレティックトレーナー協会)のポジションステートメントではMILSに対して3つの禁忌に言及しているので、紹介させていただきます。
- 頚椎を中間位に戻す際、痛みの増大、神経症状、筋けいれん、または気道の障害を引き起こす
- 頚椎を中間位に戻すことが物理的に困難である
- 頚椎を中間位に戻す際、頚部に抵抗を感じる、または傷病者が不安を訴える
ぜひ英語の論文を読める方は下記のリンク先の全文を読んでみてください。
頚椎を中間位に戻すときのコミュニケーション
上記のMILSの3つの禁忌を見ていただければわかるように、頚椎を中間位に戻す際の傷病者とのコミュニケーションがとても重要になってきます。
用手頭頚部固定をして、中間位にない状態から中間位にする際には、
- 痛み
- 神経症状
- 筋けいれん
- 不安
に関しては随時コミュニケーションをして変化がないかを確認する必要があります。
また、コミュニケーションを会話でしているときには、上記の項目の変化だけではなく、気道の障害についても考慮する必要があるので、呼吸の仕方や話し方、話すスピードなどにも注意する必要があります。
不安に関しては言葉でのコミュニケーションだけではなく、傷病者の表情や体の緊張具合などにも目を向ける必要があります。
会話をしながら、目で確認するだけではなく、頚椎を動かしている手の感覚も重要です。
頚部の抵抗を感じることもMILSの禁忌の1つです。
専門家として、チームとしての準備
アスレティックトレーナーとして、メディカルスタッフとして、専門家としてしっかりとMILSのスキルや頚椎を中間位にする際の傷病者とのコミュニケーションの練習をして準備をすることはとても重要ですが、チームで活動している際には選手や指導者などを含めたチームとしての準備も必要になります。
特に選手にはEAPのシミュレーション訓練で実際に傷病者の役割を担ってもらい、どのような救急対応がされるのかを身をもって体験してもらっています。
もちろん、EAPのシミュレーション訓練の前に頭と首のケガについて伝え、何のためにやっているのか、どのようなステップで救急対応が進むのかは教えますが、知識として学び、体験してもらうことで実際に起こってしまったときによりコミュニケーションが円滑になると思っています。
EAPハドルで専門家同士の最終確認
試合や大会の当日には最終確認としてEAPハドルを行う必要があります。
実際の当日に、実際の現場で救急対応に必要なスタッフが集まり、EAPに基づいて救急対応の流れを確認します。
実際に対応するスタッフがどのような知識とスキル、バックグラウンドを持っているかによってできる救急対応も変わってきます。
また、各競技団体のガイドラインによって求められる救急対応も変わってくるので、EAPハドルで救急対応についてのボタンのかけ間違えがないことを確認することは、緊急時のコミュニケーションを円滑にするためにも必要です。
「EAPって何?EAPのシミュレーション訓練?」と方はぜひ下記の記事を読んでみてください。