「初期評価の目的ってなんだっけ?」
「初期評価ってどういうステップでやっていけばいいの?」
今回の記事では、「初期評価のやり方」について解説します。
初期評価とは
アスレティックトレーナーが実施する初期評価とは、ケガや事故が発生したときに気道確保、人工呼吸、胸骨圧迫、AED、頭頚部固定など、生命の危険がある傷害や重度の障害が残る可能性のあるものへの救急対応が必要かどうかを判断するための評価です。
初期評価は、基本的にケガや事故が発生してからの評価になりますが、アスレティックトレーナーとしては、ベンチやサイドラインなどからケガや事故が発生しやすい受傷シーンを考慮して、立ち位置などを決める必要があります。
また、受傷シーンをアスレティックトレーナーが目撃しているか、していないかによって初期評価の効率が変わります。
ラグビーやアメリカンフットボールなどのトップレベルのスポーツ現場では、受傷シーンの動画をサイドラインにいるスポーツドクターやアスレティックトレーナーなどに情報を提供されています。
また、イングランドサッカーでは、初期評価に加えて、受傷シーンを「見る」を加えて、SALTAPSという手順で試合中や練習中にケガをした際にプレーに戻れるか、戻れないかの判断をしています。
初期評価のステップ
初期評価は、分かりやすく言うと、緊急時かどうかを判断するための評価です。
初期評価で緊急時と判断した場合に最も重要なのが、「EAP (Emergency Action Plan: 緊急時対応計画)の発動」です。
また、初期評価で緊急時ではないと判断してから、より詳細の評価をするために二次評価に移行します。
より詳細の評価を二次評価と呼ばれているため、初期評価のことを一次評価と呼ばれる場合があります。
1. 状況を把握しながら、安全の確保
初期評価の最初のステップは、状況を把握した上で安全を確保することです。
フィールド上で倒れた選手がいた場合にはアスレティックトレーナーとしては早く近づいて、迅速な救急対応をしたいところですが、さらなる被害を拡大させないことが重要です。
また、ラグビーでは、競技中に自由にメディカルスタッフはフィールド内に入れますが、サッカーや野球などのように審判の許可を得てからでしかフィールド内に入れないスポーツもあります。
落雷や2人以上倒れている場合などでは特に、状況を把握する必要があります。
救助者であるアスレティックトレーナーが近づいても安全かどうかをまず確認する必要があります。
さらに、安全の確保には、感染対策も含まれます。
使い捨て手袋を着用していない場合には、この最初のステップから安全の確保として手袋の着用を始めるようにしてください。
2. 傷病者へ近づく
安全を確保した上で傷病者へ近づきますが、近づくだけではなく、近づいている間にも情報を収集する必要があります。
トランシーバーなどで誰かから呼ばれた場合には、可能な限り重要な情報を聴取します。
このようにトランシーバーなどで情報を得られる状況の場合には、緊急時に救急車を呼ぶときなどに伝達する情報である「SAMPLE history」を参考にします。
アレルギーと薬の服用、口からの最後の摂取については、特に医療従事者の処置をする際の判断で有効な情報で、アスレティックトレーナーとして救急対応をするために聞く情報としては、受傷機転、徴候と症状が優先順位は高いので、「何が起こったのか」「何を一番訴えているのか(主訴)」を確認しています。
傷病者が視界に入っている場合には以下のことを確認します。
- 体位
- 異常な姿勢
- 動いているかどうか
- 大出血
- 変形や変色
- 顔の表情、顔色
- 嘔吐
- 失禁 など
傷病者に対して直接、声をかける前から初期評価は始まっていて、傷病者以外の人からの情報と見て得られる情報はとても重要で、この段階ですでに緊急時と判断できる場合も少なくありません。
3. 頭頚部の保護と気道の確保
傷病者へ近づいてから、すべての傷病者に対して意識や呼吸の確認をする前に「頭頚部の保護と気道の確保」をしなければならないということではありません。
ただし、体位をむやみに変えて頭頚部を動かしたりしないこと、気道の確保をすることの重要性を強調するためにも「頭頚部の保護と気道の確保」はこの位置にあります。
発語ができていれば、気道は確保されているため、傷病者に近づく際には傷病者の発語にも注意を向けることが大切です。
頭頚部を固定する方法として代表的なのがMILSです。下記の記事でMILSの方法について解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
4. 意識/反応の確認
大きな声で呼びかけながら、肩を軽く叩き、意識を確認し、どのような反応をするのか観察します。
意識レベルの確認する際の判定の方法は、AVPUやGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)、ECS(エマージェンシー・コーマ・スケール)など様々あるため、事前にどの判定方法を利用するかを決めておく必要があります。
また、意識レベルだけではなく、瞳孔や眼振もこのタイミングで評価することができます。
瞳孔の大きさの観察
瞳孔は、自然光で左右の瞳孔の大きさを観察します。
瞳孔異常には、縮瞳と散瞳があります。
- 正常な瞳孔の大きさ: 2.5~4mm
- 縮瞳: 2mm以下
- 散瞳: 5mm以上
- 瞳孔不同: 左右差が1.0mm以上
対光反射の観察
直接対光反射は、光を片眼ずつに当てて、光を当てた側の瞳孔の縮瞳の有無を観察します。
すぐに1mm以上収縮すれば正常と判断することができます。
光を当てた反対側の瞳孔の縮瞳の有無を観察する間接対光反射では、動眼神経障害や視神経障害によるものかを予測することができます。
ただし、瞳孔は特に、太陽光で分かりにくい場合もありますし、薬物中毒などの影響も忘れてはいけません。
5. 呼吸の確認
呼吸の確認は、傷病者の顔や胸部、腹部を観察します。
基本的には「普段通り」の呼吸ができているか、どうかを10秒以内で判断します。
そして忘れてはいけないのが「死戦期呼吸」です。
以前の呼吸の確認は、「呼吸の有無」でしたが、死戦期呼吸を呼吸ありと判断して、救急車の要請やAEDの使用が遅れてしまった事例がありました。
6. 循環/脈拍の確認
呼吸の確認と同時に頚動脈や橈骨動脈で
- 脈拍の有無
- 脈拍の強さ
- 脈拍の回数
脈拍を確認します。
7. 出血・変形の確認
傷病者に近づく際にも出血や変形があるかどうかを見ていますが、ここではさらに詳しく、出血と変形がないかを確認していきます。
皮下出血も眼窩底骨折などが原因で起こるため、注意深く観察する必要があります。
8. 体温の確認
緊急時と判断する必要のある労作性熱射病や低体温では、中枢温を測定する必要があります。
ただし、日本では医療資格者しか測定はできませんが、初期対応のステップの中に体温の確認が含まれているという点はとても重要です。
医師などの中枢温を測定できる医療資格者と一緒に活動する場合にはここで医療資格者に引き渡す必要があります。
9. 神経・血行障害の確認
痺れや感覚の違い、四肢の筋力の違いなど神経や血行障害の可能性も確認する必要があります。
神経障害を評価する上では、デルマトームやマイオトーム、深部腱反射が役に立ちます。
初期評価の注意点
初期評価で迷った際には、特に、最悪のケースを想定して対応することが重要です。
私は初期評価で迷った際には「EAPの発動」もしくは私より知識・スキル・経験が高い方への引き継ぎをするようにしています。
また、すぐに症状や出現しないような頭部の出血などもあることを常に頭の中に入れておく必要もあります。
初期評価の際に症状や徴候がなかったとしても、時間が経過してから異変が発生していないかを継続的にモニタリングすることが大切です。
「SAMPLE history」には、徴候と症状、アレルギー、薬の服用、既往歴、口からの最後の摂取、現病歴/受傷機転です。SAMPLE historyに関しては下記の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。